日々思うこと

「日本の伝統文化 そろばん」 茨城新聞 寄稿より

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「ねがいましては」の掛け声でパチパチとリズミカルに響く珠の音が懐かしい時代となった現在ですが、今、新たに教育の場で「読み・書き・そろばん」の寺子屋教育が復活しています。平成16年に兵庫県尼崎市において「計算(ソロバン)教育特区」が認定され、小学校の教科の一つとして、ソロバン教育を主とした「計算科」が尼崎市立杭瀬小学校で創設されました。また、文部科学省では平成21年4月から言語活動・道徳教育等をはじめ、算数や理科教育の充実を図り、子供たちの「生きる力」を育むことを目指す教育を推進することになり、基礎学力の確保と併せて日本の良さを見直そうという観点から小学校3・4年生の算数の授業でそろばんが必修になりました。IT・情報化時代となった現在、子どもたちの周りには電卓をはじめとする計算電子機器が溢れており、電子キーを押すだけで足し算、引き算、掛け算、割り算など計算する過程を考えずに答えが出てきる便利な世の中になりました。しかし基礎学力の計算力をつける上で最も重要なことは計算の仕組み、プロセスを考えながら答えを出すことです。そろばんは5玉1個、1玉4個という最小限の組み合わせの中で、珠の動きを見ながら計算の仕組みを学ぶことができます。そろばんは指先を使い、このことが脳に刺激を与え、計算能力を高めるだけでなく、右脳のイメージ能力によって、数字を直観的にとらえる数感覚が身に付きます。

そろばんの起源については諸説あり、メソポタミア南部のバビロニアで考え出された砂ソロバンであるという説と、中国の三国志の武将、関羽という人物が作り出したという説がありますが、メソポタミアで誕生したそろばんが、シルクロードを経て中国に渡り、日本には今からおよそ500年ほど前、室町時代の末期に伝わったとされています。その頃のそろばんは現在の形と異なり、2個の5玉、5個の1玉というもので、このそろばんが日本全国に広がり、日本独特の「和算」として発達していきます。武士の次男として生まれ和算の始祖と尊敬された大数学者の関孝和(たかかず)という人物も和算に興味を持ち、数学者・吉田光由が数学の原理をやさしく説いた「塵却記(じんこうき)」や中国の書物を研究し、後に円周率を小数以下11桁まで求めるなど数々の業績を残し、日本固有の数学「和算」を世界的水準に高める活躍をしました。江戸後期になると商人、役人など多くの庶民に行きわたり、子どもたちも寺小屋で読み書きと一緒にそろばんを習うようになりました。その後昭和10年の教科書改訂に際して小学校でそろばんが必修になり、そろばんの形も5珠から4珠へと変わり今私たちが使っているものと同じ形になりました。

このように私たち日本人は、小さい頃からそろばんに親しむことで計算力を高めてきたわけでありますが、OECD(経済協力開発機構)が学習到達度調査(PISA)として数学における学力調査を行ったところ、2000年は日本が32カ国中1位、2位が韓国、3位がニュージーランド、2003年の調査では41カ国中1位香港、2位フィンランド、3位韓国と続き、日本は6位、2006年では56カ国中1位台湾、2位フィンランド、3位香港、4位韓国で、日本は10位という結果でした。この結果を受けて民間リサーチ会社が親世代を対象に学力が低下した理由のアンケート調査をしたところ1位がゆとり教育の導入による影響、2位が学習内容の質の低下と思うという回答でした。近年、各国で少子化が進み教育熱が高まっているのも事実ですが、東南アジアは下より、米国、欧州諸国の世界各国の公立学校では、位取り、十進法などにより算数の基礎を学ぶことができるそろばんの授業を行うところがあります。私たち日本人も日本の伝統文化「そろばん」の良さを再認識し、ハイテクが進む中「パチパチ」とシンプルなそろばんのリズミカルな音が響く社会になってほしいと期待してやみません。