日々思うこと

「感動がくれた水泳」 茨城新聞 寄稿より

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「前畑ガンバレ! 前畑ガンバレ!」と絶叫に近い実況中継のアナウンサーの声が真夜中にラジオから日本国中に響き渡りました。それは1936年ベルリンオリンピックの200メートル平泳ぎで地元ドイツ代表のマルタ・ゲネンゲルとデッドヒートを繰り広げ、日本人女性として五輪史上初の金メダルを獲った前畑秀子さんの実況中継でした。
前畑さんと同様に現在の日本水泳を国際的レベルに引き上げたのは日本水泳連盟名誉会長を務められており東洋のトビウオとの異名をとった古橋広之進さんや橋爪四郎さんです。
その後北京オリンピックでは「チョー気持ちいい」が流行語大賞となった北島康輔選手が金メダルに輝き、表彰式で君が代が流れ、センターポールに日の丸が揚がるのを見たとき、日本人のほとんどはナショナリズムを感じ、自分が日本人であることに誇りを持ったことでしょう。このようにスポーツ・水泳は私たちに多くの勇気と感動を与えてくれるほか、水の中で行う運動なので水の浮力によって足腰の負担が軽減されるため年齢を問わずに有酸素運動を効果的に行うことができ、生活習慣病の改善、予防にもつながるとされています。

クロール、平泳ぎ、バタフライ、背泳ぎといった泳法がポピュラーですが、日本には昔から外国にその例をみないほどの数多くの泳法があり、水府流(茨城県)、水任流(香川県)をはじめとする12の流派が日本水泳連盟で公認されている伝統ある流派です。水府流は約400年前の初代水戸藩主、徳川頼房、第二代徳川光圀の時代に生まれ、その後第九代藩主、徳川斉昭によって「水府流水術」と名付けられ、藩校・弘道館においても武術七芸の一つに定められ「刀・槍・砲・馬・水・弓・柔」といった武士に必要な武術として大いに奨励をしたそうです。水府流の「のし泳ぎ」は有名ですが、横体、平体、浮身、飛込、潜水など180種類もの泳ぎの型があり、その伝統ある泳法は現在でも受けつがれております。しかし河川環境の変化等に伴い水府流発祥の那珂川の水場で泳ぐことができなくなったのは残念なことであります。

先般NHKで「小さな旅」という番組が放映され、霞ヶ浦の鯉の養殖が今春5年ぶりに再開され、産卵の準備や孵化した稚魚を愛おしそうに見つめ、「霞ヶ浦の水は生きている。あの水がないとだめなんです。」と話す霞ヶ浦北浦小割式養殖漁業協同組合の竹石正明組合長の言葉が感動的でした。
水は、人間を含め全ての動植物が生きていく上で必要不可欠なものです。そのため古くから水を尊び、恩恵を授かり、一方で洪水災害などの様々な経験から「水入らず」「水に流す」「魚心あれば水心」「覆水盆に返らず」「智者は水を楽しむ」「水は方円の器に随う」「水清ければ魚棲まず」など水にまつわる多くのことわざがあります。
また言伝えの中に「背負い水」というのがあります。これは一人の人間が、一生に飲む水の量はあらかじめ決まっていて、それを飲みきったら一生が終わるということです。生まれたときに、誰もが自分の分というものを持って生まれてくる。だから背負い水と同じように一生のうちに自分に与えられた命を大切に生きなさいということだと思います。
水という自然の恵みによって古代から現代、そしてこの先も人間をはじめとする全ての生き物が生かされているということを念頭に、水のスポーツ、水泳を楽しめることに感謝し、「上善如水」の精神で過ごしていきたいと思うこの頃です。