日々思うこと

「水戸学の理念は“文武不岐”」 茨城新聞 寄稿より

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NHKの「小さな旅」で東武館の寒稽古の様子が放映されました。寒稽古は1月2日の早朝5時から始まり、「面」、「小手」、「胴」と、白い吐息とともに竹刀を振り下ろす子どもたちの声が館内にこだまする様子は、感激を覚えるものでした。東武館の剣道は“前へ”を基本とし、小手先に囚われずに正々堂々と前へ進むことを良しとします。相撲界で活躍した武双山関のモットーも“前へ”でした。

東武館は、明治7年(1874年)に水戸藩の剣道指南役であった小澤寅吉政方先生によって創設されました。明治維新後、滅び逝く武士階級とともに武士道精神までが衰退していくことに、「士風の喪失の憂い」を痛感したことに始まります。小澤先生は、水戸藩の藩校「弘道館」の建学の精神である「文武不岐」を基本精神として、剣道を通じて武士道精神の伝承と実践、特に青少年の育成に力を尽くしました。

東武館の基本精神である「文武不岐」とは、知識(理論)を行動(実践)で確かめ、行動を知識によって立証する実証的精神のことです。この「文武不岐」の基本精神と「学業一致」を具現化したものが「全国選抜少年剣道錬成大会」です。「勉強します」「剣道します」「よい行いをします」の三誓願を大会スローガンに掲げ、昭和35年に第1回大会を開催、本年で50回を数えます。この間、数多くの少年が「文武不岐」の精神を学び、全国各地で立派な社会人として、また剣道の指導者として活躍しています。

平成24年度より武道(剣道・柔道・相撲の中から選択、なぎなた・弓道も可)が中学校1学年と2学年の授業で必修科目(ダンスも必修)となります。これは教育基本法の改正を踏まえ、武道を通して日本の伝統や文化に触れ理解を深めようとするものです。武道は稽古を通じての人格の形成を主眼とし、勝敗よりも高い精神性に重きを置いています。高い精神性とは、小澤初代館長が喪失を憂いた「士風」武士道精神の実践に他なりません。新渡戸稲造先生は『武士道』のなかで、武士道精神とは「義・正義」「勇気」「仁・惻隠」「礼儀」「真実・誠実」「名誉」「克己心」等を挙げ、それを行動規範・道徳として実践(知行合一)することとしています。武士道と聞いて古臭いと思われる方もおられるでしょうが、その中身は現代の日本人が失いつつあるものばかりです。年々体育の授業以外に運動をしない生徒が増え、体力の低下が憂慮されています。これを機に、自分の好きな競技をみつけ専門的に取り組んで欲しいものです。また、限られた授業時間数のなかでは高い技術を修得することは不可能ですが、その精神だけは身につけて欲しいと思います。

茨城県は、平成19年度より国内で最初に公立高校において道徳の授業を必修化しました。そのねらいは、生徒一人ひとりが人間としての在り方生き方に関する自覚を深め、道徳的実践力を高めることにあり、言うならば武士道の克己心、自己に克つこと、自分に負けない、負けない自分を造ることにあります。
子どもはその成長の過程で、両親や祖父母、学校の先生、先輩、友達等々の指導やアドバイスを受けながら自己を形成していきます。一本の刀が完成までに何度も叩かれて初めて光り輝くように、時には厳しく諭し行動を正すことも必要です。優しさが必ずしも良いとは限りません。また厳しくすることが教育ではありません。刀を造る上で最も大事な作業が、刀を叩いて鍛える作業、これを『鍛練』と言います。人を育てる上での鍛練を『錬成』と言います。寒さを吹き飛ばすほどの元気な時代、これこそ錬成の時代。館祖以来、脈々と流れる東武館の願いはここにあります。『鉄は熱いうちに打て』です。