日々思うこと

JR西日本の事故に関して

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4月25日(月)午前9時20分過ぎ、JR西日本福知山線尼崎―塚口間で快速電車が脱線転覆し、死者107人(運転士を含む男性60人・女性47人)負傷者540人という誠に痛ましい大事故になった。鉄道事故としては、平成3年の信楽高原鉄道以来のもので『世界で最も安全』といわれた日本の鉄道神話を崩壊させる大惨事となった。

今回の脱線転覆事故の原因は、航空・鉄道事故調査委員会や警察の調査結果をまたねばならないが、速度超過が主因とほぼ断定された。

事故を起こした快速電車は、事故直前の伊丹駅でオーバーランし約1分30秒出発が遅れその後、制限速度時速70kmの半径300mの急カーブに時速100km超で入ったことが確認されている。それに加え非常ブレーキがかかったことで車両が不安定な状態になり、片輪が浮き上がって横倒しになる転覆脱線が起きたとされている。

また、JR西日本の経営体質までが事故の原因のひとつとして多くの苦言がよせられ、乗務員教育や人事管理の在り方等に疑問の声が上がっている。なかでも運転士の責任(ミス)で運行ダイヤに遅延を生じさせた場合、内規処分の規定によって『日勤教育』という再教育プログラムを受けることになっており、これが精神的に大きな負担となっていたといわれている。この日勤教育は、運転士の安全への意義を高め技術向上に結びついているものとは大きくかけは離れ、再教育からは程遠い草むしりや窓拭き、ペンキ塗り等の作業や人格を否定するようなものまで、おおよそ『いじめ』とも言えるような内容だったとの指摘もある。現にこの日勤教育によって平成13年には自殺者を出している。大量輸送機関として多くの乗客の命を預かる鉄道会社が、安全を確保するため運転士のミスに対して厳格に望むのは当然であるが、運転士が、落ち着いて安全運転に専念できる業務環境ではなかったようである。

私鉄各社が強い関西地区のなかでも私鉄の老舗・阪急と競合する地区であり、より多くの集客をねらって高速化をはかるとともに、乗り換えなどの利便性の向上と合わせて、定時運行の励行と遅延を認めない過密ダイヤの中で運転士は絶えず緊張にさらされていたという。快速電車の増発などによる高速化等の運行サービス、駅舎の新築等サービスは向上したが、最新のATS(自動列車停止装置)や脱線防止のガードレールの設置など、安全管理として事故防止の設備投資の遅れや先送りがあったことも判明している。スピードや節電化などに利点のあるステンレス製車両を導入していたが、車体が軽いため遠心力に弱いとの指摘もされていた。にもかかわらず、線路配置は旧国鉄時代と変わらず踏み切りやカーブの連続が残る路線であった。

またJR西日本は、民営化前後10年間の人員削減策によるあおりで、運転士の年齢構成において30代の運転士割合が全体の0.5%と極端に少なく、社会人や経験者を積極的に採用してきたJR東日本や同東海と比べて、経験の浅い20代の運転士が4割を占める年齢偏重がみられた。運転士になるためには国家資格を取得しなくてはならないが、その前に社内試験に合格しないと国家試験を受験できない。JR西日本ではその社内試験を入社3年目で受けることができ、国家資格の免許取得平均年齢は23.3歳と私鉄各社の20代後半から30代という平均年齢に比べて格段に若く、"促成栽培"の指摘どおり未熟さが問題視されている。

民間企業である以上効率的な経営により収益を追求するのは当然のことであるが、多くの人命を預かっての鉄道業である以上まず安全が優先されなければならない。脱線した事故車両には、運転士が二人乗り合わせていたにもかかわらず救助活動を行わず出勤、さらに報告を受けた上司は救助の指示もしていなかった。事故発生後も職員のボーリングやゴルフの懇親行事も行われ、それを中止もせずまた中止の声もたいして上がらず180人以上が参加していた。ここまでくると無責任としか言いようが無く、企業の体質・風土を問う以前に参加していた社員一人ひとりのモラルを疑ってしまう状況である。

JR西日本は、安全を軽視する企業体質を改善し安全を確保するために最新のATSや脱線防止ガードの取り付けはもとより、線路配置の転換を含めた事故防止対策のための先行投資と過密ダイヤ、社員教育等の人事管理・業務管理等一からの見直しと徹底が急務とされるところである。

IT革命ともいわれるコンピュータをはじめとする情報技術の発展と普及により、あらゆる業種で経営の効率化がはかられ収益を重視・追求する傾向にある昨今、収益や効率とは相反する時間をかけての人材育成"人づくり"をしなくなってきている。また、コンピュータの導入とマニュアル化によって、職務経験が浅いものでもそこそこに業務をこなすことが可能となり、時間をかけて培われるプロとしての職業意識や責任感、倫理観が希薄となってきている。JR西日本に限って言えば、年齢偏重により職人の存在が隅に追いやられ、マニュアル化できない部分、職人技を要求される部分の伝承ができず、鉄道マンとしての誇りやプロ意識の希薄さがその根底にあったのではなかろうか。

過去には、日航機の墜落事故、東海村の臨海事故、雪印の食中毒事件等鉄道事故に限らず大きな事故があるたびに安全・安心の重要が叫ばれ、その対策が研究もされ、それぞれが新たな決意をもって出直しをしてきたはずである。しかしながら、"喉元過ぎれば熱さ忘れる"で過去の教訓は生かされてなかったようである。ただ事故現場付近の人々が、阪神大震災で得た教訓を忘れずに取るものも取らずに現場へ救助にかけつけたことだけだった。鉄道や航空各社はもちろん、すべての人々が今回の事故を他山の石とせず、自らの職業の基本にかえって誠実に、勤勉に、責任をもって職務に励んでほしいと思う。

時間に追われ多忙な毎日を送っておられる方が多いと思う。電車は正確であることが当たり前と考えている私たちであるが、世界各国の鉄道では5分10分の遅れは遅れに入らないし、それを遅れとも思わない。時間は取り戻すことのできない大事なものであるが、もう少し時間と心に余裕をもって、時間を上手に使って充実した毎日を送りたいものである。

どんなに速く正確であっても安全があってのこと、安全なくしては逆に無駄な時間が生まれてしまう。今回の事故も速さと経営上の効率・収益を優先し安全を軽視したがゆえに、大きな事故につながり信頼を取り戻すのに結局長い時間と多大な労力が必要となってしまった。

今回の鉄道事故を、記憶の中に埋もれさせることなく教訓として生かし続け、再発防止につとめることで亡くなられた方たちの供養としていきたいものである。